
2025年10月に史上最高値 $126,100 を記録したBitcoinは、2026年2月時点で約$67,000前後まで下落しています(約46%下落)。 こうした局面になると決まって聞こえてくるのが「Bitcoinはいつかゼロになる」という論調です。単なる煽りなのか、それとも無視できない構造的リスクの表れなのか──今回は5つのリスクシナリオを多角的に分析し、長期投資家が知っておくべき客観的な論点を整理します。
なぜ今「ゼロになる」という声が増えているのか

2024年4月の半減期(ブロック報酬が6.25BTCから3.125BTCへ削減)、そして現物ETFの承認という二大イベントを経て、Bitcoinは機関投資家の本格参入を受けた局面に入りました。機関投資家の参入は市場の成熟を示す一方で、従来のリテール投資家とは異なる「長期的リスク管理」の視点をも持ち込みます。
その最たる例が、2026年1月に起きたJefferiesの判断です。グローバル投資銀行のJefferiesは、アジア重点ポートフォリオからBitcoinを除外しました。理由は短期的な価格下落ではなく、量子コンピュータの進化がBitcoinの暗号技術を将来的に脅かす可能性でした(参照:The Quantum Insider)。
この動きは市場に一定のインパクトを与えました。2026年のBitcoinは年初来でゴールドに対して6.5%アンダーパフォームしており、BTC/ゴールド比率は19.26と機関投資家が慎重な水準にあります。一方でハーバード大学がBitcoinアロケーションを約240%増加させ、モルガン・スタンレーが富裕層顧客向けに最大4%の組み入れを推奨するなど、機関投資家の姿勢は割れています(参照:Yahoo Finance)。
「ゼロになる」という議論は、価格の話ではなくプロトコルとしての存続可能性の話です。その視点で、5つのリスクシナリオを見ていきましょう。
リスク1:量子コンピュータによる暗号解読

Bitcoinのセキュリティは主に2つの暗号技術で成り立っています。ひとつはECDSA(楕円曲線デジタル署名アルゴリズム)で、ウォレットの秘密鍵を保護するものです。もうひとつはSHA-256で、マイニング(採掘)のプルーフ・オブ・ワーク(作業証明)に使われます。
量子コンピュータの「ショアのアルゴリズム」を使うと、ECDSAを破って公開鍵から秘密鍵を逆算できる可能性があります。「グローバーのアルゴリズム」はSHA-256のブルートフォース攻撃を高速化しますが、完全に無効化するわけではありません。
ただし現実を直視すると、この脅威は現時点では理論的なものに留まります。CoinShares の2026年2月のレポートによれば、Bitcoinの暗号を破るには現在の最先端量子コンピュータの1万〜10万倍の性能が必要とされており、「耐量子性を持つ量子コンピュータ(CRQC)」が実現するのは早くとも2030年代以降と多くの研究者は見ています(参照:CoinDesk)。
脆弱なアドレスについては、レガシーのP2PK形式で約160万BTC(全供給量の約8%)が公開鍵を常時露出させた状態にあるとされています。しかし、CoinSharesは「市場に実質的な影響を与えるほど集中した脆弱BTCは約10,200BTC程度」と分析しており、残りは3万2,000以上のウォレットに分散しているため、一括攻撃は現実的でないと述べています(参照:Decrypt)。
MichaelSaylorが率いるStrategyも「量子コンピュータが暗号的に有意なレベルに達するまで10年以上はかかる」との見解を示しつつ、長期的なセキュリティ計画のための協調プログラムを立ち上げると発表しています(参照:The Quantum Insider)。
リスク2:51%攻撃

51%攻撃とは、単一の主体がネットワーク全体のマイニングハッシュレート(採掘計算量)の過半数を掌握し、取引履歴を書き換える「二重支払い」攻撃のことです。これもBitcoinの存亡に関わる古典的なリスクシナリオのひとつです。
現実には、2026年2月時点でBitcoinのハッシュレートは1,000 EH/s(1ゼタハッシュ)を突破し、史上最高値を記録しています。 これを1秒あたり10京回以上の計算という巨大な「壁」が守っている状態です(参照:CoinGecko)。年間消費電力は約184TWhにのぼり、これはマレーシアやポーランド1国の電力消費量に相当します。51%攻撃を成功させるには、この全ハッシュレートを上回る計算資源と電力を短時間で調達する必要があり、経済的にも物理的にも不可能に近い水準です。
小規模なブロックチェーンでは51%攻撃が現実に発生していますが、Bitcoinに関しては「攻撃コストが利益を大幅に上回る」という経済的合理性が防衛線として機能しています。
リスク3:各国の規制強化

規制リスクは価格下落の直接的なトリガーになりうるため、短期的な視点でも無視できません。2025〜2026年は世界的に暗号資産規制が強化される転換期にあります。
日本においては、金融庁(FSA)が2024年のDMMビットコイン不正アクセス事件(約482億円相当のBTC流出)を受け、暗号資産管理業者への事前通知制度導入を検討しています。2026年の通常国会において金融商品取引法改正案として提出される可能性があります(参照:fundfa.com)。また2026年2月27日を期限として、ステーブルコインの準備資産ルールに関するパブリックコメントも募集されています(参照:Live Bitcoin News)。
米国では2025年にGENIUS法が通過し、ステーブルコイン発行体に準備資産・監査・財務健全性の要件が課されました。市場構造法制(CLARITY法)は2027年に持ち越しとなりましたが、規制の方向性は「禁止」ではなく「制度化」へと向かっています(参照:Chainalysis)。
EUではMiCA(暗号資産市場規制)が2024年12月から完全施行され、包括的な規制フレームワークが整いました。バーゼル委員会が銀行の暗号資産エクスポージャーに関する資本規制の見直しを行っており、機関投資家の参入余地が広がる方向にあります。
規制は「脅威」としてだけでなく、市場の透明性と信頼性を高める「触媒」としての側面もあります。制度化が進むほど、Bitcoinが金融システムから排除されるリスクは低減します。
リスク4:ステーブルコインの連鎖崩壊

2022年のTerraLuna崩壊は、アルゴリズム型ステーブルコインが引き金となった数十億ドル規模の連鎖的暴落でした。2026年時点でも、ステーブルコインはDeFi(分散型金融)の基盤として機能しており、その健全性はBitcoin市場の安定とも密接に関わります。
現状では、USDCをはじめとする主要ステーブルコインはFRB規制下での整備が進み、日本でもSBI VC TradeがUSDCの初の公認販売業者となるなど制度的基盤が強化されています。ただし、テザー(USDT)のような準備資産の透明性に疑問符がつくステーブルコインが依然として大きなシェアを占めており、大規模な取り付け騒ぎが発生した場合のシステミックリスクは否定できません。
日本銀行の2025年10月論文も、ステーブルコインの準備資産構造がシステミックリスクの観点から注目すべき課題であることを指摘しています(参照:日本銀行)。
リスク5:CBDCによる代替・排除
中央銀行デジタル通貨(CBDC)の普及は、Bitcoinにとっての存在価値を間接的に弱める可能性があります。デジタル人民元(e-CNY)の国内普及、欧州CBDCの実証実験、日本銀行のデジタル円検討など、国家主導のデジタル通貨は着実に進化しています。
しかしCBDCとBitcoinは機能が根本的に異なります。CBDCは国家の管理下にある中央集権型の通貨であり、政府・中央銀行が関与しない非中央集権型の価値保存手段というBitcoinの独自性は維持されます。むしろCBDCの普及は「デジタル通貨というカテゴリー」全体への認知を高め、Bitcoinへの関心を引き上げる側面もあります。
5つのリスクを整理する
各リスクを「発生可能性」と「影響の大きさ」の2軸で整理すると、以下のような結論が導き出されます。

短期的には量子コンピュータは「現実の脅威」ではなく「10年単位の工学課題」です。51%攻撃はハッシュレートの規模から実質不可能なレベルに達しています。規制については制度化の方向が明確であり、「禁止」よりも「管理」の枠組みへ向かっています。
では「ゼロになる」可能性は本当にゼロかという問いに対しては、誠実に答えると「完全否定はできない」となります。ただしその条件は、複数の壊滅的リスクが同時に発現するという極めてまれなシナリオに限られます。現時点の技術・規制・市場環境を踏まえると、短期的にゼロになる根拠は見当たりません。
むしろ2026年のBitcoinが直面している最大のリスクは、量子コンピュータでも規制でもなく、AIセクターや他の新興資産との資本競合と、マクロ経済環境(流動性引き締め)である可能性が高いと見られています(参照:bitcoinethereumnews.com)。
まとめ
「Bitcoinはゼロになるか?」という問いは、投資判断の前提となる重要な問いです。しかしその答えは、価格チャートではなくプロトコルの設計・コミュニティの対応力・制度環境の成熟度によって決まります。
2026年2月時点で言えば、Bitcoinはリスクと向き合いながらも、制度化・技術的準備・分散性というの3つの軸で着実に強靭性(レジリエンス)を高めています。ゼロになるシナリオは理論上は存在しますが、それは「消えゆく通貨」ではなく「課題を解決できなかった場合の最悪値」として捉えるべきでしょう。
長期投資家にとっては、今の46%下落が「Bitcoinの終わり」ではなく「次のサイクルへの調整過程」である可能性を、冷静なリスク評価とともに検討する局面と言えます。
参照
- 参照:日本銀行「暗号資産の構造的課題とCBDCの役割に関する考察」
- 参照:コインテレグラフジャパン「2026年、ビットコインの存亡を脅かす5つのリスクシナリオ」
- 参照:金融庁「2025年 暗号資産市場の健全性に関する報告書」
- 参照:PwC Japan「暗号資産の将来展望2026」
- 参照:クラーケン「51%攻撃とは?」
- 参照:MIT Technology Review「暗号資産に迫る量子コンピューターの脅威」
- 参照:The Quantum Insider「Jefferies、量子リスクを理由にBitcoin除外」
- 参照:CoinDesk「量子の脅威は現実だが遠い」
- 参照:CoinDesk「CoinShares:量子リスクの規模は過大評価されている」
- 参照:CoinGecko「量子コンピュータはBitcoinを終わらせるか?」
- 参照:Chainalysis「2025年暗号資産規制まとめ」
- 参照:Bitfinex Blog「Bitcoin、量子の脅威に対処できるか?」

